【東京都美術館】『レオポルド美術館 エゴン・シーレ展 ウィーンが生んだ若き天才』展

激動の人生を追体験しながら才能に触れられる50点が集結!

《ほおずきの実のある自画像》エゴン・シーレ 1912年 レオポルド美術館蔵

新型コロナウイルス感染症の変異株により、日々増加傾向にある感染者数に伴いまして、美術館、博物館、ギャラリーなどの文化施設に、気軽に訪れられない日々が続いています。

現在、新しい生活様式のもと検温や消毒など徹底した感染症対策を行いながら、運営に努める施設関係者の思いに応えられるように、一人でも多くの方が美術館を訪れるきっかけとなるべ く、展覧会の模様を伝える【ミュージアム・レポート】をスタートしました。

そのような経緯から東京都美術館にて開催中の『レオポルド美術館 エゴン・シーレ展 ウィーンが生んだ若き天才』をご紹介します。]

展示風景

世紀末を経て芸術の爛熟期を迎えたウィーンに生き、28歳の若さでスペイン風邪によりこの世を去り、20代で早世した天才画家として広く認知されているエゴン・シーレ。

本展覧会では、220点以上ものエゴン・シーレの作品を所蔵し、世界最大のコレクションで知られるレオポルド美術館(ウィーン)の所蔵作品を中心に、有名な作品である『ほおずきの実のある自画像』など、初期から晩年までの油彩や素描50点を通して、シーレの激動の画家人生を振り返ります。

また、合わせてクリムトやモーザー、ゲルストル、ココシュカをはじめとする、強烈な個性を放つ同時代の作家たちによる約120点の作品も展示し、ウィーン世紀末美術の諸相を紹介しています。

展示風景

《装飾的な背景の前に置かれた様式化された花》エゴン・シーレ 1908年 レオポルド美術館蔵

エゴン・シーレは、16歳という最年少でウィーンの美術学校へ入学し、10代にしてクリムトに才能を認められると、若い仲間たちと新たな芸術を起こすべく「新芸術家集団」を結成します。

彼はウィーン分離派を初めとして象徴派や表現主義に影響を受けつつも、独自の絵画を追求して強烈な個性を持つ画風に加え、意図的に捻じ曲げられたポーズの人物画を製作しました。

そんな当時の常識にとらわれない創作活動によって、逮捕されるなどの波乱に満ちた生涯を送りつつも、人間の内面や性を生々しく表現しながら、見る者に直感的な衝撃を与える作品を生み出します。

展示風景

会場では、そんな彼の激動の人生を追体験しながら才能に触れられる50点作品とともに、ウィーン世紀末を生きた強烈な個性を放つ画家たちによる約120作品も合わせて鑑賞できます。

全体的にエゴン・シーレに焦点を当てながらも、同時代の作家たちによる作品も展示することで、普遍的な時代の共通性が感じられるだけでなく、その中にもシーレ独自の表現を追求している様子が、見る者を捉えては離さない人間の内面をえぐるような生々しい作品から伺えることでしょう。

また、年代、写真、言葉も合わせて展示構成に組み込まれており、彼の激動の画家人生を疑似体験できるだけでなく、その創作の背景に触れることができ、よりシーレを身近に感じられました。

展示風景

《吹き荒れる風の中の枝の木(冬の木)》エゴン・シーレ 19年 レオポルド美術館蔵

『すべての芸術家は詩人でなければならない(1918年)』にある通り、どの言葉もシーレの思想や独自の哲学が垣間見え、その強い言葉と同期するようにどんどん生々しさを増し、独自の表現を模索しながら挑戦を繰り返す作品からは、彼の人間性にも触れられて誰しもが惹きつけられてしまうことでしょう。

特に筆者のおすすめはキリスト教絵画の伝統的な聖母子像を思わせる構図に収められた《母と子》。

目と口をしっかりと閉じた母親の表情は世界との断絶を感じさせますが、その一方目を見開いた子どもは恐怖心をあらわにしてており、平和や愛情の象徴というより死や不安をほのめかしており、幼すぎた父の死などが影響を受けているのかと想像が膨らんでしまいます。

《母と子》エゴン・シーレ 1912年 レオポルド美術館蔵

《しゃがむ二人の女》エゴン・シーレ 1918年 レオポルド美術館蔵

今回、シーレの早熟な人生、完成された表現、円熟した作品からは、言葉にできない孤独や苦悩を抱えていたこと、そして死が身近であったことなどが伺えます。

その作品が表すように28歳で亡くなってしまったシーレ…もしも、もう少し長く生きていたらどんな作品を描いていたのか、そんなことを想像せずにはいられません。

そんなエゴン・シーレの作品50点とともに、強烈な個性を放つ同時代を生きた画家たちによる作品120点から、今と等しく大戦や疫病など困難な時代ではありますが、新しい表現に挑戦した人々の歩みが鑑賞できる、本展覧会に足を運んでみてはいかがでしょうか?

取材・撮影・文:新麻記子

【情報】
『レオポルド美術館 エゴン・シーレ展 ウィーンが生んだ若き天才』
会期:2023年1月26日(木)~4月9日(日)
会場:東京都美術館
   東京都台東区上野公園8-36
   アクセス:JR線上野駅公園口より徒歩7分。東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅7番出口より徒歩10分。京成電鉄京成上野駅より徒歩10分
開館時間:9:30~17:30
※金曜日は20時まで開館
※入場は閉館の30分前まで
休館日:月曜日
観覧料:一般2200円、大学生・専門学校生1300円、65歳以上1500円、高校生以下無料
※オンラインでの日時指定予約制
https://www.tobikan.jp
https://www.egonschiele2023.jp/