アイティーエル株式会社では、新しい生活様式のもと感染症対策を行い、運営に努める施設関係者の思いに応えられるよう、一人でも多くの方が美術館を訪れるきっかけとなるべく、2020年7月より【ミュージアム・レポート】を開始しました。
まだまだコロナも終息したとはいえませんが、世の中の動きも活気を取り戻し、美術館・博物館もさまざまな企画や対策を打っています。
そんな中、日常が大きく揺らぎ、世界情勢が不安定な中、癒やしを与えてくれる、山種美術館にて開催中の『【特別展】癒やしの日本美術 ―ほのぼの若冲・なごみの土牛―』をご紹介します。
本展について
日常が大きく揺らぎつつあり、不安定な世界情勢が続く昨今、「マインドフルネス」、「ウェルビーイング」、「チル」といった心の動きを意識する言葉が時代のキーワードとなっています。
その背景として、自分自身の内面と向き合い、心を癒やすことが求められているといえるでしょう。
山種美術館にて開催中の『【特別展】癒やしの日本美術 ―ほのぼの若冲・なごみの土牛―』では、日本美術の鑑賞を通して、優しい気持ちになれる、展示となっています。
ユーモアあふれる作品に、自然と笑みがこぼれ、心が安らぐ日本美術が並んだ展示室で、癒やされるひとときを過ごしてみてはいかがでしょうか。
若冲、芦雪のゆるかわな作品
会場では、伊藤若冲や長沢芦雪が描いたゆるくてかわいい姿の作品がご覧になれます。
素朴でゆるやかな表情が魅力的な伊藤若冲《布袋図》(個人蔵) や《伏見人形図》、可愛い子犬たちがじゃれ合う長沢芦雪 《菊花子犬図》(個人蔵) など、ユーモアあふれる作品に自然と笑みがこぼれることでしょう。
円山応挙の弟子である長沢芦雪は、師とは対照的に大胆な構図で、斬新なクローズアップを用い、奇抜で機知に富んだ画風を展開した「奇想の絵師」の一人として、近年その人気が高まっています。
彼が描く子犬の描写はずんぐりしたフォルム、つぶらな瞳や少し緩く開いた口元、そして戯れ合う愛嬌たっぷりの姿で、見るものを惹きつけて現代の「ゆるかわ」を思わせてくれます。
ふわもふ動物、愛らしい子ども
ふわふわとした見た目が愛らしい奥村土牛《兎》や竹内栖鳳《鴨雛》、愛しい我が子を描いた小出楢重《子供立像》など、かわいらしい姿に思わずにっこりしてしまうこと間違いなし!
愛らしい動物や子どもを描いた作品からは、対象をいとおしむ画家の愛情が伝わってきて、見た目のかわいらしさに心が和らぐとともに、温かな気持ちになります。
旧習に縛られた画壇の革新に大きな役割を果たし、生き物の一瞬の動きを捉えることに長けていた竹内栖鳳は、植物や動物などモチーフを観察し、見たままに写し取る「写生」に力を入れ、生涯に残した写生帖は100冊以上になると言われています。
そんな竹内栖鳳が餌場に集まる微笑ましい情景を描いた《鴨雛》は、雛が見せるあどけない表情や仕草はもちろん、ふわふわでもこもこしている羽毛に思わず手を伸ばしたくなってしまいます。
美術館でリラックス
古き良き美しい日本の景色や自然界の心地よい音に癒されたという経験はありませんか?
優しく包み込まれるような自然を描いた川合玉堂《山雨一過》や、心地よいさえずりが聞こえてくることを想像させる上村松園《杜鵑を聴く》を前にすれば、心癒される風景や音が感じられ、気持ちがリラックスすることができるでしょう。
さらに、会場では作品の制作が画家自身の心を癒やすことになった例も紹介しています。
※所蔵表記のない作品は全て山種美術館所蔵です。
最後に
可愛いものを愛でる気持ちに共感を覚えるとともに、モチーフに対する遊び心にも思わず頬が綻び、昔の人も、今の人も、心が安らぎ、癒やしを与えてくれるものを求めたことが作品鑑賞を通して伝わってきます。
鑑賞後は、ミュージアムショップやカフェに立ち寄ってみてはいかがでしょうか。
ミュージアムショップでは、本展覧会の出品作品をモチーフにした、さまざまなアイテムが販売されており、その中でも長沢芦雪 《菊花子犬図》の絵はがきは初日に200枚と飛ぶように売れたんだとか。
また、館内の「cafe椿」では本展覧会の展示作品からインスピレーションを得て、伊藤若冲《伏見人形図》から『富貴』や、奥村土牛《兎》から『はくと』などの和菓子を召し上がることができます。
年末年始にかけて忙しい時だからこそ、美術館でリラックスしたひと時を過ごし、新年を温かい気持ちで迎えてみてはいかがでしょうか。
取材・撮影・文:新麻記子
【情報】
【特別展】癒やしの日本美術 ―ほのぼの若冲・なごみの土牛―
会期:2023年12月2日(土)~2024年2月4日(日)
会場:山種美術館(東京都渋谷区広尾3-12-36)
開館時間:午前10時~午後5時 (入館は午後4時30分まで)
休館日:月曜日[1/8(月・祝)は開館、1/9(火)は休館、12/29(金)~1/2(火)は年末年始休館]
ホームページ:https://www.yamatane-museum.jp/