
アイティーエル株式会社では、一人でも多くの方が美術館や博物館を訪れるきっかけとなるべく、2020年7月より【ミュージアム・レポート】を開始いたしました。
今回は、鮮やかな色彩と大胆な模様で世界中の人々を魅了し、フィンランドを代表するデザインハウス『マリメッコ』の世界を楽しめる、東京都庭園美術館にて開催中の「マリメッコ展 模様のちから Marimekko: Art of Printmaking ―Beauty, Dream, Love」をご紹介します。
本展覧会について

フィンランドを代表するデザインハウス『マリメッコ』。
1951年の創業以来、鮮やかな色彩と大胆な模様によって、ファッションやインテリア、テーブルウェア、日常の小物にいたるまで、私たちの暮らしを明るく彩るデザインを生み出しました。
本展覧会では、60点を超えるドレスやファブリック、貴重な資料、映像インスタレーションなどを通して、1951年の創業から現在に至るまで、75年にわたって受け継がれてきたマリメッコの美学と、その想像の背景に迫ります。

さらに、ものづくりの中核をなすプリント・ファクトリーの現場を、アートユニット・plaplaxによる映像インスタレーションや、ゲスト参加するデザイナー・皆川明による空間インスタレーションの展示にも注目してください。
また会場となるのは、1933年に朝香宮家の邸宅として建てられた旧朝香宮邸。フランスのアール・デコ建築の取り入れた優美な空間に、北欧の自由な色彩と模様が溶け込み、時代も文化も異なる二つの美意識が響き合います。
マリメッコについて

本館1階の展示風景
『マリメッコ(Marimekko)』はフィンランドのデザインハウスであり、世界に先駆けて誕生したライフスタイルブランドのひとつです。
1951年、アルミとヴィリヨ・ララティア夫妻により設立され、喜びに溢れた人生とよりよく生きるための哲学を体現することをモットーに、そのマリメッコの基盤となるデザイン哲学は、価値と質の両面において、永きに渡り色合わせることのないタイムレスなデザインを想像することです。
高い美的感覚に基づくプリント作りの技術は世界的に知られており、ヘルシンキにある自社のプリント・ファクトリーでは、デザイナーたちが熟練した職人たちと協力し、これまで世に送り出されたプリント・デザインは3,500種類以上にのぼり、世代や国境を超えて広く指示されています。
本展覧会の見どころ
タイムレスな魅力を放つドレス -60点を超える衣服に宿る自由な精神

本館2階の展示風景
本展の大きな見どころの一つが、創業初期から現代までの60点を超えるドレスを通して、マリメッコのデザインの変遷をたどる展示です。
大胆で生命力溢れるプリントと鮮やかで色彩、そして自由なエネルギーに満ちているドレスは、着る人の個性や感情を表現し、日常に喜びをもたらすものでもあると感じられることでしょう。
創業者のアルミ・ラティアは、流行に左右されず、時代を超えて愛されるドレスを目指し、服を一時的な流行の消費物ではなく、長く暮らしに寄り添うデザインとして捉える思想があります。

1950年代の女性のファッションには、身体の曲線を強調するシルエットや、女性らしさを一定の形式で表現する服装が広く見られたが、マリメッコが打ち出したのは、身体を締めつけずに、自由に動くことのできる、ゆったりとしたシルエットのドレスでした。
そして何より特徴的だったのが「ドレスをキャンバスに」という思想をもとに、服の表面を覆う大胆で生命力あふれるプリント模様は、誰もが身にまとうことのできる布を通して、生活の一部に美しさを体現し、芸術と生活の融合という理想にも通じています。
ヘルシンキのプリントファクトリーから生まれる創造力

マリメッコの魅力を語るとき私たちは模様の美しさに目を奪われてしまうことでしょう。ヘルシンキのプリント・ファクトリーは、マリメッコの心臓部であり、「アートが生まれる現場」といえます。
しかし、その美しさを支えているのは、デザイナーの発想だけではなく、一枚の布が完成するまでには、図案を描く人、色彩を調整する人、プリントの技術を担う人など、多くの人々の仕事が関わっています。
そこには芸術と工業とが密接な関係性があり、一人のデザイナーによって生み出した図案が、職人の技術によって布地へと展開されることで、芸術の価値を失わせる大量生産ではなく、芸術的な発想を広く社会へ届けるための仕組みとも考えられています。

会場では、現地で取材したアートユニット・plaplaxが、プリントが生まれる過程や色と形のダイナミズムを映像作品として表現し、変幻自在で色彩豊かな夢のようなインスタレーションを通して、プリント・ファクトリーのエネルギーを伝えてくれます。
そんなplaplaxによるファクトリーのインスタレーション作品を見る際には、完成した模様の美しさだけでなく、その背後にある時間や技術、作り手たちの協働にも思いを巡らせてみてください。
模様が響き合う、旧朝香宮邸×マリメッコ -アール・デコと北欧デザインの幸福な出会い

本館である旧朝香宮邸は、1933年に竣工した歴史的建造物で、フランスのアール・デコ様式を基調とし、日本の装飾や意匠が随所に施されています。
アール・デコとは、1920年代から1930年代にかけてヨーロッパを中心に広まった装飾様式のことで、幾何学的な形や左右対称の構成、洗練された素材使いなどを特徴とし、建築から家具、ファッション、グラフィックデザインまで、幅広い分野に影響を与えました。

さまざまな模様に満ちている歴史的空間に、マリメッコの鮮やかなドレスやファブリックが登場。
一見するとアール・デコの優雅で洗練された装飾と、マリメッコの大胆で自由なプリントは、対照的な美意識を持っているように思えますが、両者には重要な共通点があります。それは、模様や装飾を通して日常生活の中に美を届けて豊かにしようとする思想です。
時代を超えて、国を超えて、初めて出会うデザイン…歴史的建造物ならではの落ち着いた陰影と、マリメッコの鮮やかな色彩との対比が印象的ですが、旧朝香宮邸の静謐な空間は、マリメッコの模様が持つ生命力を引き出す、もう一つのキャンバスになっています。
日本とマリメッコをつなぐデザイン —国境を超えて響き合う感性

マリメッコと日本の関係は想像する以上に長い歴史を持っています。
本展覧会では、日本人デザイナーたちがマリメッコの創造に果たしてきた役割にも光が当てられており、その代表的な存在が、1960年代からマリメッコで活躍した脇阪克二と1970年代から活躍した石本藤雄。
脇阪克二は、大胆な色彩と遊び心のある形を組み合わせ、親しみやすさとモダンな感覚を兼ね備えたテキスタイルを生み出しました。その一方、石本藤雄は、自然や植物への繊細なまなざしをもとに、独自の色彩感覚を生かした数多くの図案を手がけています。
両者の作品に共通するのは、自然への眼差しを単純化しながら、その本質的な美しさを捉えようとする姿勢で、マリメッコのデザインと日本の感性には通じるものがあると感じられることでしょう。
最後に

本展覧会は、数々の展示作品から、デザインの魅力、歴史や制作過程、そして建築空間との対話を通して読み解き、マリメッコが単なるファッションブランドではなく、一つの生活哲学を持ったデザインハウスであるということが感じられるでしょう。
60点を超えるドレスからは衣服を通して個性を表現する喜びが伝わり、《ウニッコ》をはじめとするプリント・デザインからは自然の美しさを自由な形へと変換する想像力が感じられ、プリント・ファクトリーの展示からは、一枚の布の背後にある職人たちの技術と創造への情熱が見えてきます。
マリメッコの模様は、鮮やかな色彩は視線を引きつけ、ときに力強く、ときにかわいらしく、ときにユーモラスに、大胆な形は見る人の感情を揺さぶるのと同時に、その表現は多彩でありながらも、根底には一貫して自由で前向きな精神が流れています。
模様は、ただの装飾ではなく、それは暮らしに喜びをもたらし、自分らしさを表現し、世界を見るまなざしを変え、マリメッコの色と形に触れるひと時は、日常に潜む美しさを改めて見つめ直す機会となる…そんなマリメッコの「模様のちから」を感じに足を運んでみてはいかがでしょうか。
情報
「マリメッコ展 模様のちから Marimekko: Art of Printmaking ―Beauty, Dream, Love」
会期:2026年10月3日(土)〜12月20日(日)※日時指定予約制
会場:東京都庭園美術館
開館時間:10:00〜18:00(入館は17:30まで)
休館日:原則月曜日(祝日等による変更あり)
ホームページ:https://www.teien-art-museum.ne.jp/exhibition/20261003-1220_marimekko