【渋谷区立松濤美術館】『後藤克芳 ニューヨークだより “ 一瞬一瞬をアートする”』

大胆かつ繊細!後藤克芳 東京初の回顧展!

新型コロナウイルス感染症により美術館・博物館・ギャラリーなどに気軽に足を運べなくなってしまいました。

そんな状況下に負けじと感染症対策をきちんと行いながら、運営に努める施設関係者への思いに応えられるように、一人でも多くの方が美術館を訪れるきっかけになることを考え、美術館・博物館・ギャラリーの様子を伝える【ミュージアム・レポート】をスタートすることとなりました。

そのような経緯から、今回は渋谷区立松濤美術館で開催中の『後藤克芳 ニューヨークだより “ 一瞬一瞬をアートする”』をご紹介します。

地下1階展示室より

現在、渋谷区立松濤美術館では『後藤克芳 ニューヨークだより “ 一瞬一瞬をアートする”』を開催しています。

本覧会では、1960年代から現代美術の新しい流れとなったポップアートに取り組み、身近な題材をアートに昇華させた後藤克芳の作品を紹介しています。

後藤克芳 (1936~2000) はニューヨークを舞台に活躍したアーティストです。主に木を使用したスーパーリアリズムの手法で、驚くべき完成度の高さをみせる半立体作品を制作しました。

その作品の魅力は両面性。ポップでキッチュな作風とは裏腹に、その仕上がりは非常に几帳面です。

2階展示室より

地下1階展示室より

後藤克芳は、自然豊かな山形県米沢市に生まれ育ち、幼少期から絵の道を目指します。その後、上京して武蔵野美術学校(現:武蔵野美術大学)の西洋画科に進学。

在学中に交流を深めたのは、後にアヴァンギャルドのアーティストとして活躍した荒川修作や、ボクシングペインティングの手法で描く篠原有司男といった面々でした。

後藤は、彼らが1960年に結成した前衛芸術グループ「ネオ・ダダイズム・オルガナイガーズ」を故郷に招いて紹介するなど、活発に活動しました。

大学卒業後に、数年で渡米。永住権を獲得し、終生制作に励みました。
ニューヨークでは商業デザインなどで生計をたてながら、多くの友人と交流を持ちながらコツコツと努力をつづけ、一流のギャラリーで勝負しようと作品制作に集中しました。

2階展示室では、『郷里米沢60’s』『ニューヨーク70’s〜80’s』と年代別で構成されており、美大在学中に制作していた絵画作品をはじめとし、アンフォルメルの影響をうけていた初期作品から、ニューヨークで制作された80年代の作品までの作風の変化をたどります。

また、その2階展示室奥の空間では、在学中に知り合った友人達との交流がわかる写真や、同じく友人の河原温による朝起きた時間が記録された葉書「I GOT UP」シリーズなど、後藤と他作家たちとの交流に関する資料展示がされています。

2階展示室より

2階展示室より

2階展示室の写真資料より

地下1階展示室では、『ニューヨーク90’s』『AIDS エイズ・ウォーク』『CATS 愛猫とともに』で構成され、50代以降の後藤の作品がご覧になれます。

日常にある身近なアイテムを作品のテーマにし、思いがけない組み合わせやユーモアを交えた作品は、若い頃から一貫して丁寧に作りこまれています。

地下1階展示室より

地下1階展示室より

例えば、『ニューヨーク90’s』のセクションにある《NOSE》は、正面からだと鮮やかなバラの楕円形の絵に見えますが、真横からだと鼻の立体物が浮かび上がります。ROSE(花)とNOSE(鼻)の花と鼻が掛け合わされ、駄洒落がきいていますね。

しかも、こちらのモチーフとなった花柄は、20年にわたり後藤夫人が好んで着用していた、パーティードレスの模様だそうで、後藤の夫人への愛も感じられる作品でした。

後藤克芳《NOSE》1993年 米沢市上杉博物館 前期展示より

他にも『AIDS エイズ・ウォーク』では、ポップ・アーティストのキース・ヘリングがエイズで亡くなると、彼と知り合ってまもなかった後藤は大きな衝撃を受け、敬意を込めて彼の作風を取り入れた作品を制作しました。

エイズへの警鐘を鳴らす作品を多く制作し、日本へ向けて雑誌や新聞での連載記事でも訴えかけるなど、積極的に社会にメッセージを発信する姿勢も見て取れました。

写真右:後藤克芳《untitled》部分 1991年 米沢市上杉博物館
写真左:後藤克芳《DIARY MAY 1998》1998年 米沢市上杉博物館

会期中には、講演会やギャラリートークのほか、色紙を後藤作品のモチーフのハートや魚などの形に切り取り、モビールをつくるワークショップ『いろ紙でモビールをつくろう』が開催されます。

作品の多くを所蔵する米沢市上杉博物館の全面協力により、没後に遺族によって郷里へもたらされた後藤作品を、東京でご覧になれる初の機会となります。ぜひ大胆かつ繊細な後藤作品をご鑑賞ください。

2階展示室より

地下1階展示室より

取材・執筆・撮影:新 麻記子

【情報】
『後藤克芳 ニューヨークだより “ 一瞬一瞬をアートする”』
会期:2020年10月3日(土)〜2020年11月23日(月・祝)
前期:10月3日~25日
後期:10月27日~11月23日
会場:渋谷区立松濤美術館
東京都渋谷区松濤2-14-14
時間:10:00〜18:00(最終入場時間 17:30)
休館:月曜日
11月4日(水)
※ただし、11月23日は開館
会期や開館時間、イベント等変更する場合がございます。
最新情報は美術館ホームページ等でご確認ください。
サイト:https://shoto-museum.jp