【SOMPO美術館美術館】デザインとイラストレーションの青春 1900s-1930s 大正イマジュリィの世界

展覧会風景

アイティーエル株式会社では、一人でも多くの方が美術館や博物館を訪れるきっかけとなるべく、2020年7月より【ミュージアム・レポート】を開始いたしました。
今回は、SOMPO美術館で開催中の「デザインとイラストレーションの青春 1900s-1930s 大正イマジュリィの世界」(会期:7月12日(土)〜8月31日(日))をご紹介します。

本展覧会につい

展覧会風景

本展覧会では、2004年に結成された大正イマジュリィ学会の創立会員・役員を務めた山田俊幸氏の収集品から、大正時代を中心とする約330点を紹介します。
「大正イマジュリィの作家たち」と「さまざまな意匠イマジュリィ」の2つの視点で作品をまとめ、大衆に忘れがたい記憶を残した儚く膨大なイメージ群―大正イマジュリィの世界を掘り下げます。

そもそも、展覧会タイトルのイマジュリィとは?

展覧会風景

「イマジュリィ(imagerie)」とは、もともとフランス語で、「時代や地域、ジャンルに特徴的なイメージ群」を意味する言葉です。
もともとは宗教版画や民間信仰の絵札など、複製によって広く流布した画像文化を指す場合が多いですが、ここでは特に近代日本の大正期に花開いた視覚文化を指します。
大正時代(1912–1926年)は、西洋美術やデザイン思潮が急速に流入し、日本独自の感性と結びつきながら、新しいビジュアル文化が爆発的に拡大した時代です。
都市化、識字率の向上、印刷技術の革新、そして大衆雑誌・広告・ポスター・楽譜表紙・絵葉書などの普及が、時代の空気を色鮮やかに切り取った大量のビジュアルを生み出しました。
その中でも、出版界が興隆した西洋の芸術、アール・ヌーヴォー、アール・デコの様式と日本の伝統を融合させた独特な美意識のデザインやイラストレーションには、目を見張るものがあります。

本展覧会の見どころ

展覧会風景

第I部「新しい芸術と抒情」

文学と結びついた装幀や口絵を通じ、ロマンティックで抒情的な美の世界を展開しました。藤島武二が手がけた与謝野晶子『みだれ髪』の装幀は、柔らかな色彩と流麗な線が融合した典型例で、見る者を明治末から大正初期へと誘います。ここでは、詩情豊かな色面構成や、余白を生かした日本画的感性が多く見られます。

第II部「さまざまな意匠」

展覧会風景

ここでは作家ごとの個性やデザインの多様化が際立ちます。
杉浦非水のアール・ヌーヴォーからアール・デコへの移行を示す図案、橋口五葉の上品な構図、竹久夢二の憂いを帯びた女性像、高畠華宵の艶やかな少女像などが一堂に並びます。特に夢二は、雑誌・楽譜・絵葉書など幅広いメディアで活躍し、「夢二式美人」と称される儚くも愛らしい女性像を確立しました。

第III部「流行と大衆の時代」

都市の中産階級を中心に、大衆文化が急速に花開いた時代。絵葉書、広告、雑誌のカバー、楽譜表紙など、娯楽と商業の交差点で生まれたデザインが紹介されます。色彩はより鮮やかに、構図は簡潔かつ大胆に。広告としての機能とアートとしての美を兼ね備えた作品群が、大正モダンの息吹を感じさせます。

アートと時代精神の融合

展覧会風景

大正期のイマジュリィは単なるデザインの流行ではなく、当時の社会変動と密接に結びついていました。
アール・ヌーヴォーの曲線美、アール・デコの幾何学構成、セセッションの装飾性が、日本の印刷物に華麗に取り込まれており、また余白の美、非対称構図、日本画や浮世絵の線描による、西洋的彩色や立体感との融合も感じ取れることでしょう。
また、劇場、カフェ、百貨店といった新しい都市空間が、デザインのモチーフや背景に登場する都市文化が読み取れるほか、 明治期の儒教的価値観から離れたモダンガール(モガ)の自由さや個性を表す女性像の変容もご覧になっていて楽しいことでしょう。
そういったことから杉浦非水の三越広告や竹久夢二の楽譜表紙などの作品は、単なる販促ツールではなく、消費者の生活に芸術を持ち込む「日常芸術」の役割を果たしました。

最後に

展覧会風景

本展覧会は現代のデザインや広告文化のルーツを探る機会でもあり、100年前の印刷物に込められた感性や技巧は、今もなお新鮮で私たちの美意識に刺激を与えてくれます。
実際に会場を歩くとまず圧倒されるのは色彩の豊かさです。大正期の印刷技術は現代のようなフルカラーオフセットとは異なり、石版や木版、多色刷りの手法を駆使していました。そのため、現在のデジタル印刷にはない微妙な色の揺らぎや重なりが感じられることでしょう。
また、大衆文化と芸術の境界を軽やかに行き来した大正イマジュリィは、まさに「生活の中の芸術」という理想を体現していました。現代のSNSやデジタル広告に慣れた目で見ると、その丁寧さと情緒の深さは新鮮な驚きとなり、100年の時を超えて鮮やかに蘇ります。

【情報】

大正イマジュリィの世界 デザインとイラストレーションの青春 1900s–1930s
会期:2025年7月12日(土)〜8月31日(日)
会場:SOMPO美術館(東京都新宿区西新宿1‑26‑1)
開館時間:10:00〜18:00(金曜日は20:00まで)
休館日:毎月曜日(7月21日・8月11日は開館)、8月12日
ホームページ:https://www.sompo-museum.org/exhibitions/2024/taisho-imagerie/