【東京都美術館】『ゴッホ展ー響きあう魂 ヘレーネとフィンセント』

初期から晩年までの画業を網羅的にたどる!
ファン・ゴッホの知られざる努力に触れられる展覧会

まだまだ新型コロナウイルス感染症により、美術館、博物館、ギャラリーなどの文化施設に、気軽に訪れられない日々が続いています。

しかし、そんな状況下に負けじとオンラインチケットで密を防ぎ、検温や消毒など徹底した感染症対策を行いながら、運営に努める施設関係者の思いに応えられるように、一人でも多くの方が美術館を訪れるきっかけとなるべく、展覧会の模様を伝える【ミュージアム・レポート】をスタートしました。

そのような経緯から、1926(大正15)年に日本初の公立美術館として開館し、「アートへの入口」としてさまざまな事業を展開している、東京都美術館にて開催中の『ゴッホ展ー響きあう魂 ヘレーネとフィンセント』をご紹介します。

報道内覧会の様子

「ひまわり」や「星月夜」などで有名なフィンセント・ファン・ゴッホ(1853―1890)に魅了され、その世界最大の個人収集家となったヘレーネ・クレラー゠ミュラー。

まだファン・ゴッホが評価の途上にあった1907年からヘレーネは近代絵画の収集をはじめ、鉄鉱業と海運業で財をなした夫アントンの支えのもと、11,000点を超える作品を入手しました。

その中でも、ファン・ゴッホの芸術に深い精神性を見出したヘレーネは、90点を超える油彩画と約180点の素描・版画を収集。

その感動を多くの人々と分かち合うべく、生涯にわたり美術館設立に情熱を注ぎ、美術館設立により作品を公開・継承したことで、ファン・ゴッホの評価形成に重要な役割を果たしました。

フローリス・フェルステル《へレーネ・クレラー=ミュラーの肖像》1910年 クレラー=ミュラー美術館

本展覧会では、ヘレーネが初代館長を務めたクレラー=ミュラー美術館からファン・ゴッホの油彩28点と素描・版画20点に加え、同じくオランダにあるファン・ゴッホ美術館から油彩画4点が特別出品され、ファン・ゴッホの作品計52点が展示されています。

ファン・ゴッホの初期から晩年までの画業を網羅的にたどりながら、一部作品(キャプション)にはヘレーネと作品にまつわるエピソードが記載されおり、より深く作品理解が深まる面白い展示内容となっています。

報道内覧会の様子

LB展示室では、ミレー、ルノワール、スーラ、ルドン、モンドリアンらの油彩画20点もあわせて展示されており、ファン・ゴッホ作品を軸に近代絵画の展開をたどり、ヘレーネの類まれなコレクションがご覧になれます。

会場の1階・2階で展示されているファン・ゴッホ作品へと繋がる、農民画を描いたバルビゾン派のミレーや、点描で描いた新印象派のスーラに、注目して鑑賞してみると面白いかもしれません。

主題とする対象をはじめとし、その独特な色彩や筆遣いなど、ファン・ゴッホが作品を描く上で、とても影響を受けていることがわかります。

ジョルジュ・スーラ《ポール=アン=ベッサンの日曜日》1888年 クレラー=ミュラー美術館

1階では、ファン・ゴッホが油彩画を本格的に制作するより以前に描いていたとされる、オランダ時代の人物素描作品をはじめ、男女をモデルに様々な姿を捉えた陰影に焦点をあてた作品や、バルビゾン派やハーグ派の影響から暗い色調の油彩画、そしてフランスで新印象派の影響を受けた明るい色調の油彩画が登場。

こちらのコーナーではまだ画を描くことに不慣れで、身体のバランスもおぼつかない作品などがあり、今では世界的評価も高く“天才”と言われていますが、その裏側にあるファン・ゴッホの努力に触れることができます。

また、父・テオドルスが牧師であり、自身も聖職者を志すも挫折し、伝道師への努力が報われなかったファン・ゴッホは、1880年に画家になる決意をしてからも、画で安らぎを与えたいという想いから、懸命に作業に勤しむ農民や当時立場的に弱い女性など、声なき人々を題材に描いていたそうです。

フィンセント・ファン・ゴッホ《祈り》1882年12月/1883年4月 クレラー=ミュラー美術館

左フィンセント・ファン・ゴッホ《女の顔》1884年11月-1885年1月
右フィンセント・ファン・ゴッホ《白い帽子を被った女の顔》1884年11月-1885年5月
いずれもクレラー=ミュラー美術館

1886年にオランダからフランスに移ってからのファン・ゴッホ作品は、当時のパリを台頭していた新印象派や浮世絵に触れ、それまでの暗い色調から色鮮やかな色彩になった作風へと変わっていきます。

絵の具をまぜない筆触分割により印象派の明るい色彩と、無数の色彩の粒を精密に配置して点描技法で描いた《レストランの内部》は、自分なりに新印象派のスーラなどの技法を消化した一つの到達点を表す作品です。

パリ滞在の約2年ですっかり表現を刷新し、力強く現代的な独自の様式を発展させ、限られた仲間内ではありますが前衛画家として認められるようになりました。

フィンセント・ファン・ゴッホ《石膏像にある静物》1887年前後 クレラー=ミュラー美術館

画家としての自信を深めたファン・ゴッホは、理想の芸術を表現できる場所として、1888年、パリからアルルに居を構えました。

真の現代の芸術家は卓越した色彩画家だと考え、南仏の明るい空の青と鮮やかな太陽の色彩である黄色の組み合わせに熱心に取り組み、《黄色い家(通り)》《種まく人》などの出品作品からその様子が伺えることでしょう。

10月にはアルルにポール・ゴーガンが合流し、影響を与え合いながら制作を行いましたが、二人の関係はこじれ、共同生活は2か月で終わりを迎えます。

フィンセント・ファン・ゴッホ《黄色い家(通り)》1888年9月 ファン・ゴッホ美術館(フィンセント・ファン・ゴッホ財団)

フィンセント・ファン・ゴッホ《種まく人》1888年6月17日-28日頃 クレラー=ミュラー美術館

2階では自身の病状が悪化したことから、1889年にアルルを離れる決意をし、サン=レミ郊外にある療養院に自ら入院した頃の、ファン・ゴッホの晩年期の作品などがご覧になれます。

特に「糸杉」と「星空」を掛け合わせてロマンチックな夜を描いた《夜のプロヴァンスの田舎道》では、自然光や人工灯がない闇夜を想像力と昼間で見た風景の記憶力で美しく塗り替えています。

フィンセント・ファン・ゴッホ《夜のプロヴァンスの田舎道》1890年5月12日-15日頃 クレラー=ミュラー美術館

ファン・ゴッホの初期から晩年までを網羅的に紹介する本展覧会の構成では、画家になる決意をしたゴッホの吸収力や探究心に驚き、「孤高の天才画家」の知られざる努力に触れることができるでしょう。

ぜひファン・ゴッホ好きの方はもちろん、まだあまりファン・ゴッホのことを知らない方も、足を運んでみてくださいね。

取材・撮影・文:新麻記子

【情報】
『ゴッホ展ー響きあう魂 ヘレーネとフィンセント』
会期:2021年9月18日(土)~12月12日(日)
会場:東京都美術館 企画展示室
休室日:月曜日
   ※ただし、11月8日(月)、22日(月)、29日(月)は開室
時間:9:30~17:30(入室は閉室の30分前まで)
料金:一般 2,000円 / 大学生・専門学校生 1,300円 / 65歳以上 1,200円
   ※本展は日時指定予約制です。詳細は公式WEBサイトをご覧ください
   ※高校生以下は無料(日時指定予約が必要です)
   ※身体障害者手帳・愛の手帳・療育手帳・精神障害者保健福祉手帳・被爆者健康手帳をお持ちの方とその付添いの(1名まで)は無料(日時指定予約は不要)
   ※いずれも証明できるものをご提示ください
展覧会公式サイト:https://gogh-2021.jp