【静嘉堂文庫美術館】『サムライのおしゃれ ―印籠・刀装具・風俗画―』展

2020年、猛威を振るった新型コロナウイルス感染症により、美術館、博物館、ギャラリーなどの文化施設に、なかなか訪れられない日々が続きました。

しかし、新しい生活様式のもと事前予約をはじめ、検温や消毒など徹底した感染症対策を行い、運営に努める施設関係者の思いに応えられるように、一人でも多くの方が美術館を訪れるきっかけとなるべく、展覧会の模様を伝える【ミュージアム・レポート】をスタートしました。

そのような経緯から静嘉堂文庫美術館にて開催中の『サムライのおしゃれ ―印籠・刀装具・風俗画―』展をご紹介したいと思います。

静嘉堂文庫美術館とは?

静嘉堂@丸の内(静嘉堂文庫美術館) ホワイエ 明治生命館1階(千代田区丸の内) 撮影:木奥惠三(公式サイトより)

静嘉堂は、岩﨑彌之助(1851~1908 彌太郎の弟、三菱第二代社長)と岩﨑小彌太(1879~1945 三菱第四代社長)の父子二代によって創設・拡充され、現在、国宝7件、重要文化財84件を含む、およそ20万冊の古典籍(漢籍12万冊・和書8万冊)と6,500件の東洋古美術品を収蔵しています。

静嘉堂文庫は、1892年(明治25)に東京駿河台の岩﨑彌之助邸内に創設され、1977年(昭和52)より静嘉堂文庫に併設された展示館で美術品の一般公開がスタートしました。

1992年(平成4)4月、静嘉堂創設100周年を記念し、静嘉堂文庫美術館を新設。2021年(令和3)6月まで世田谷岡本の地で展覧会を開催していましたが、展示室が手狭になってきたことや、文庫創設130周年や美術館開館30周年の節目に当たることから移転を決意。

創設130周年の2022年(令和4)10月に、日本の近代洋風建築を体表する重要文化財で、東京・丸の内の明治生命館1階にて展示活動を再会しました。

『サムライのおしゃれ ―印籠・刀装具・風俗画―』展について

撮影:木奥惠三

静嘉堂文庫美術館のコレクションは、武家文化の日常生活の中で育まれてきたサムライの装身具である刀装具、提げ物の印籠根付の優品が豊富です。

こうした近世の美術工芸品は、海外では浮世絵と同じく日本を代表する美術品として高く評価され、明治期以降、ネクタイピンやカフスボタンのようなおしゃれな品として、世界中の愛好家に愛玩、蒐集されてきた経緯があります。

本展では、こうしたいわば“サムライのおしゃれ”に焦点を当てて、おしゃれな江戸時代の人々の様子を活き活きと描いた、近世初期風俗画なども併せて紹介しています。

選りすぐりの約40点の印籠コレクション

会場では、静嘉堂文庫美術館が所蔵する276点から、初公開品も含めた約40点の印籠(いんろう)を、将軍や大名の御用をつとめた蒔絵師ごとに展示しています。

薬などを携帯するための小さな容器だった印籠は、当初は印を入れたことから印籠と称され、室町時代頃からは応急用の丸薬入れなどに用いられるようになり、安土桃山時代以降では武士で間で愛用され、持物としての装身具となり、後に美術工芸品へと変容していきました。

会場では、各種工芸技術が駆使されて、さまざまな模様が施されており、蒔絵師による流派の作風や家ごとの好みなどがわかり、ぜひ細部までじっくり鑑賞してみてください。

英国ヴィクトリア女王から拝領したサーベルが初公開!

このたび静嘉堂で発見された、岩﨑彌之助の義父・後藤象二郎が、1868年に英国ヴィクトリア女王から拝領したサーベルが初公開されます。

英国公使のハリー・パークスを暴漢から身を挺して守ったということから、薩摩藩出身の中井弘蔵(弘)と土佐藩士の後藤象二郎にそれぞれ下賜されたもののひとつ。

中井が拝領したサーベルは娘婿の原敬(第19代内閣総理大臣)が受け継いだのち京都国立博物館に寄贈、現在も同館が所蔵しています。一方、後藤象二郎のサーベルは長らく所在不明でしたが、美術館の丸の内移転にむけて静嘉堂文庫の書庫を整理中、当時の担当司書によって発見されました。

武士にとっては活躍の場がほとんどなかった江戸時代ですが、幕末のサムライが活躍していたという証でもあるこのサーベル…ぜひその目で歴史的偉業を確かめてみてはいかがでしょうか。

美術館を代表する至宝の国宝「曜変天目」

国宝「曜変天目」静嘉堂文庫美術館所蔵

静嘉堂文庫美術館を代表する至宝のひとつ、国宝「曜変天目」が展示されます。

専用ケースに収められての展示で、「曜変天目」のケースだけ照明が異なり、茶碗の見込み(内側)を狙って真上からLEDライトが照らすよう基本設計がなされており、照度、色温度、別の照明をどう当てるかにより、予期せず生まれた模様や茶碗そのものの見え方が違うそうです。

取材・撮影・文:新麻記子

【情報】
「サムライのおしゃれ ―印籠・刀装具・風俗画―
会期:2023年6月17日(土)~7月30日(日)
会場:静嘉堂文庫美術館(東京都千代田区丸の内2-1-1 明治生命館1階)
会期中休館日:月曜日 ※7月17日(月)は開館、7月18日(火)休館
開館時間:10時~17時(金曜日は18時閉館、入館は閉館の30分前まで)
入館料:一般1,500円、大学・高校生1,000円、中学生以下無料
※日時指定予約優先(当日券も販売)
ホームページ https://www.seikado.or.jp/