【国立新美術館】『マティス 自由なフォルム』

アイティーエル株式会社では、一人でも多くの方が美術館や博物館を訪れるきっかけとなるべく、2020年7月より【ミュージアム・レポート】を開始いたしました。

困難な状況下においても美術館・博物館ではさまざまな企画や対策をおこなっていることから、全てのアートシーンに対してこれからも変わらず応援していくべく、アイティーエルも継続して情報を発信していきたいと思います。

今回は、国立新美術館にて開催中の『マティス 自由なフォルム』をご紹介します。

アンリ・マティスの創作の集大成である “切り紙絵”

展示風景 © Succession H.Matisse

20世紀を代表するフランスの巨匠、アンリ・マティス(1869-1954年)。

強烈な色彩によって美術史に大きな影響を与えたフォーヴィスム(野獣派)の中心的な存在として活動し、自然をこよなく愛し「色彩の魔術師」と謳われ、緑あふれる世界を描き続けた画家です。

長い芸術家人生のなかで多面的な造形活動をつづけ、絵画の革新者として84歳で亡くなるまでの生涯を、感覚に直接訴えかけるような鮮やかな色彩とかたちの探求に捧げました。

アイティーエルでは、2023年5月に東京都美術館で開催された「マティス展」を取り上げましたね。

展示風景 © Succession H.Matisse

本展覧会では、マティスが晩年精力的に取り組んだ “切り紙絵” に焦点を当て、彼が長い芸術家人生で最後に到達した表現に迫っています。

60年以上におよぶ創造の歩みにおいて、熟慮と試行を重ねた末に到達したのは、アシスタントに色を塗ってもらった紙をハサミで切り抜き、それらを組み合わせて活き活きとした構図に仕立てあげる切り紙絵。

色紙をハサミで切り取ることで色彩表現とデッサンを同時に行うことができ、筆とカンヴァスの代わりにこの「ハサミでデッサンする」手法で、自由自在に色とかたちを生み出しました。

マティスの鮮やかな色彩とかたちの歩みをめぐる

展示風景_『セクション1:色彩の道』より © Succession H.Matisse

会場では、マティスの鮮やかな色彩とかたちの歩みを5つのセクションにわたってご紹介しています。

最初の『セクション1:色彩の道』では、マティスの故郷であるフランス北部で描かれた作品や、フォーヴィスムの時代へ向う頃に制作された作品がご覧になれます。

続く『セクション2:アトリエ』では、後半生の大半を過ごしたニースのアトリエで描かれた作品やアトリエを主題とした作品など、鮮やかな色彩を備える絵画作品やかたちを模索する彫刻作品を展示しています。

そして、『セクション3:舞台装置から大型装飾へ』では、1920年にパリのオペラ座で公開された舞台「ナイチンゲールの歌」の衣装デザインや、1930年にアメリカのバーンズ財団に注文を受けた約13mを超える壁画など、その他テキスタイルの領域における彼の仕事を紹介へとつづいていきます。

展示風景_『セクション3:舞台装置から大型装飾へ』より © Succession H.Matisse

本展覧会タイトルでもある『セクション4:自由なフォルム』では、切り紙絵の技法を用いた作品を中心に紹介しています。彩色された紙を切り貼りする切り紙絵の技法は、厳密な色面の構成を可能とし、印刷物やテキスタイルなど、表現媒体にも適応しやすいものだったことがわかります。

最後の『セクション5:ヴァンスのロザリオ礼拝堂』では、マティスが1948年から1951年にかけて4年間に手がけた、フランス・ヴァンスにあるドミニコ会の修道女のためのヴァンスのロザリオ礼拝堂にまつわる、作品、資料、体験展示をご覧になることができます。

技法や画風に捉われることなく絶えず変化させていきながら、柔らかな線や豊かな色遣いなど、感覚に訴えかけるような、マティスの表現が楽しめることでしょう。

展示風景_『セクション5:ヴァンスのロザリオ礼拝堂』より © Succession H.Matisse

本展覧会の見どころ

マティスと切り紙絵

展示風景 © Succession H.Matisse

マティスは生涯を通して色彩とデッサンの関係を模索してきました。

20世紀初頭に「フォーヴィスム(野獣派)」と呼ばれた時代から、ニースを拠点に制作された作品まで、彼は「色彩の道」と表現される道を歩んできました。一方で、流れるような線で人物を描写するデッサンや版画でも知られます。

マティスは晩年に大病を患って以降、新たな表現手法として精力的に取り組んだのが切り紙絵!

マティスは色彩とデッサンの関係を刷新し、筆とカンヴァスに代えて紙とハサミを主な道具とし、芸術家人生の集大成というべき境地に達しました。

4.1×8.7メートル!大作《花と果実》を日本初公開

アンリ・マティス《花と果実》1952-1953年 切り紙絵 ニース市マティス美術館蔵 © Succession H.Matisse

ニース市マティス美術館のメインホールで来場者を迎える切り紙絵の大作《花と果実》が、本展のために修復を経て、初来日をはたします。

マティスの切り紙絵の作品の中でも最も巨大な部類に入るこの作品は、5枚のカンヴァスが繋がって構成されています。壁面の一面を覆う広大な画面はあたかもタペストリーのようで、鮮やかな色彩によって装飾的豊かさが加わっています。

マティス芸術の集大成、ヴァンスのロザリオ礼拝堂を体感

ヴァンスのロザリオ礼拝堂の内部を体験できる展示 © Succession H.Matisse

ニース郊外のヴァンスに建つロザリオ礼拝堂は、晩年にマティスが切り紙絵を応用し、建築の室内装飾や司祭服をデザインした、マティスの芸術人生の集大成です。

ステンドグラスの図案は幾つかのヴァージョンを経て、青色、黄色、緑色の3色を用いて、生命の木をモティーフとした案が採用されることとなりました。

そこには十字架の道行、聖ドミニクス、聖母子が白い陶板の上に黒いインクで描かれており、陶板にはステンドグラスから透過する色鮮やかな光が映り込み、太陽が昇ったり沈んだりする時間の経過に従って、光の反映によるイメージも移り変わっていきます。

本展覧会では展示室内にこのヴァンスのロザリオ礼拝堂を追体感できる空間を再現しています。

最後に

展示風景 © Succession H.Matisse

自然に忠実な色彩から解放された大胆な表現が特徴であるアンリ・マティス(1869-1954)。

パリではフォーヴィスムの中心人物として頭角を現し、ニースではアトリエで様々なモデルやオブジェを精力的に描く一方、マティスは色が塗られた紙をハサミで切り取り、それを紙に貼り付ける技法「切り紙絵」に取り組みます。

本展覧会では、フランスにあるニース市マティス美術館の所蔵作品を中心に、切り紙絵に焦点を当てながら、絵画、彫刻、版画、テキスタイル等の作品や資料、約150点を紹介しています。

フランスでの修復を経て日本初公開となる、切り紙絵の代表的作例である《ブルー・ヌードⅣ》、装飾的豊かさが加わった大作《花と果実》は必見!ぜひマティスの至高の芸術を紹介する会場に足を運んでみてくださいね。

取材・撮影・文:新麻記子

【情報】
マティス 自由なフォルム
会期:2024年2月14日(水)~5月27日(月)
会場:国立新美術館 企画展示室 2E
   〒106-8558 東京都港区六本木7-22-2
時間:10:00 ~ 18:00※毎週金・土曜日は20:00まで※入場は閉館の30分前まで
休館日:毎週火曜日※ただし4月30日(火)は開館
ホームページ:https://matisse2024.jp