【横浜美術館】「マリー・アントワネット・スタイル」

「マリー・アントワネット・スタイル」展示風景(横浜美術館、2026年)

アイティーエル株式会社では、一人でも多くの方が美術館や博物館を訪れるきっかけとなるべく、2020年7月より【ミュージアム・レポート】を開始いたしました。
今回は、「贅沢な王妃」では終わらない新しいマリー・アントワネット像を追う、横浜美術館で開催中の「マリー・アントワネット・スタイル」をご紹介します。

本展覧会について

「マリー・アントワネット・スタイル」展示風景(横浜美術館、2026年)

「マリー・アントワネット・スタイル」は、ロンドンのヴィクトリア&アルバート博物館(V&A)が企画し た世界巡回展であり、日本では横浜美術館のみで開催される貴重な機会です。
約200点に及ぶドレスやジュエリー、肖像画、家具、現代ファッションまでを通して、”王妃”ではなく”時 代を創ったスタイルの発信者”としてのマリー・アントワネットを描き出します。
本展覧会は、単なる「ヴェルサイユの豪華な暮らし」を紹介する展示ではなく、世界中の女性が今尚憧れる” スタイルの起源”でもある、18世紀から現代まで250年以上にわたり続く「アントワネット・スタイル」の 系譜をたどる構成になっています。

マリー・アントワネット

王妃マリー・アントワネット 作者不詳(フェリックス・ルコントの作品による) 1790–1810年(原作:1783年) リヴァプール国立博物館群レディ・リーヴァー美術館

マリー・アントワネットは、王妃、母、妻、ファッションリーダー、その他にも「贅沢の象徴」「悲劇の王妃」「革命に散った女性」など、時代ごとに異なるイメージを与えつづけられてきました。
オーストリア皇女として生まれたマリー・アントワネットは、14歳でフランス王太子ルイ16世に嫁ぎ、18歳で王妃となりました。当時のフランス宮廷では、服装は単なる装飾ではなく、政治であり、外交であり、権威そのものであり、常に「見られる女性」として生きる苦しさがあったことでしょう。
複数の顔を持つマリー・アントワネットですが、その華やかな人生の裏には、どんな服を着ても批判される、何をしても噂になる、SNS時代を生きる現代女性にもどこか重なるものがあります。だからこそ、本展覧会は可愛いだけで終わらず、彼女の人生を知るほど少し切なくなります。

“王妃”ではなく”時代を創ったスタイルの発信者”

マリー・アントワネットの肘かけ椅子(4点組の1点) ジャン=バティスト=クロード・スネ 1788年 V&A

会場には、衣装、家具、絵画、写真、映像を横断するように紹介され、年代順ではなく「スタイル」が受け継がれる流れを軸に構成されており、18世紀の宮廷文化からフランス革命、19世紀のロマン主義、20世紀・21世紀の映画、現代のファッションへと自然につながるため、「歴史展」という堅苦しさを感じさせません。
特に注目なのは、世界初公開となるマリー・アントワネット旧蔵の天然真珠とダイヤモンドの3連ネックレスや、首飾り事件のもととなったダイヤモンドネックレスです。その豪華さに目を奪われ圧倒される一方で、美しさが権力を支える道具であったことが伺え、「権威」の可視化であったことも理解できました。

通称「サザーランド・ダイヤモンド」 オリジナルのネックレス:フランス製 1780年代に加工 V&A

しかし本展覧会は、堅苦しい歴史的背景を押し付けるものでも、美の象徴から悲劇の象徴である王妃を称 えるものでもなく、彼女が流行を追う女性ではなく流行を作った女性という、美しさを選び続けた一人の 女性の物語を語り、鑑賞者である私たちの心へ静かに届くものです。
一人の女性が選び取った装いは、やがて芸術となり、映画となり、文学となり、ブランドとなり、現代の クリエイションへと受け継がれ、「スタイルとは服装ではなく生き方なのだ」「美しさとは流行ではな く、時代を超えて語り継がれる思想なのだ」ということに気づかされます。

「マリー・アントワネット・スタイル」展示風景(横浜美術館、2026年)

最後に

「マリー・アントワネット・スタイル」展示風景(横浜美術館、2026年)

「マリー・アントワネット」と聞いて、多くの人が思い浮かべるのは、ヴェルサイユ宮殿の豪奢な生活や、美しく着飾った王妃の姿ではないでしょうか。
あるいは、「パンがなければお菓子を食べればいいじゃない」という、実際には本人の言葉ではないとされる逸話とともに、フランス革命に翻弄された悲劇の王妃というイメージを抱く人も少なくありません。
しかし、横浜美術館で開催されている「マリー・アントワネット・スタイル」を鑑賞すると、そうした固定観念は心地よく覆されることでしょう。
本展覧会が描き出すのは、歴史上の王妃としての彼女ではなく、「美」を通して時代を動かし、250年以上にわたり世界中のクリエイターへ影響を与えつづけるアイコンとしてのマリー・アントワネットです。

【情報】

「マリー・アントワネット・スタイル」展
会場:横浜美術館(日本唯一の開催会場)
会期:2026年8月1日(土)〜11月23日(月・祝)
開館時間:10時~18時(11月21日・22日は20時まで)
    ※入館は閉館の30分前まで
休館日:木曜日(8月13日、9月24日、11月19日は開館)
ホームページ:https://www.marie2026.jp