一つ一つ、作品が主役になっていて、 一つ一つ作品と対話ができる。
照明によって作品に集中できる空間ができたことに感動を覚えました。

どのような創作をしているのか教えてください。

私の作品は絵の具を何層にも重ね合わせた抽象画を制作しています。
砂や樹脂などの素材を混ぜ合わせるため、見る角度や光の差し方、天候によって異なる表情が楽しめます。

作品のテーマには人間の感情を掲げており、その感情を花に例えて描いています。
人間の社会は花のように自由奔放では生きられません。人間は感情を持っているからこそ、抑制しながら生きています。だからこそ自由に生きる花に憧れを持ち、短い命が枯れても愛おしく感じてしまうのです。

キャンバスに絵の具を重力に委ねて垂らすことで、心に咲いた感情を花として表現し、垂れたままでは美しくない場合もあるので整えます。その行為こそが人間の「作為と無作為」であり、柵の中で生きる人間を重ねています。

最近の作品では、コロナ禍で制作した作品「pray(祈り)」のように、無数の小さな折り鶴を用いたシリーズも制作しています。

日本人という民族を改めて考えてみた時に、幼少期に折り紙を手にして「鶴」を習い、大多数の方々が折り鶴を制作できるという事実に思い当たります。それは、鶴を折り、想いを託しながら祈るという行為が身近であり、そういう優しい気持ちを持っている民族だと感じました。

私自身、祈りという行為は自分の気持ちを理解することや、他者との関係性を見つめ直す時間だと思っています。

大人になるとそのように立ち止まって見つめ直す時間をつくることが困難です。しかし、アーティストとしても、ギャラリーオーナーとしても、作品と対峙してもらう時間を設けることで、それに近い感覚があるのではないかと思い、そのような機会をつくることも模索しています。

今回、ITLの照明によって作品の見え方にどのような違いがでましたか?

本展タイトル『lullaby』には子守唄という意味があることから、会場全体を包み込むようなイメージがピッタリと合っていました。

しかし、あたたかくなりすぎると作品イメージが変わってしまうため、細かくリクエストさせていただきました。

また、私の作品には凹凸があり、なかなか写真では表せません。

TIERS GALLERY by arakawagripの個展では、朝・昼・夕・晩と異なる作品の表情はもちろん、それぞれの作品が持っている魅力を引き出してくれたと感じています。

特に作品「pray(祈り)」では、では、鶴から落ちる光の影が、私が思っていた通りに美しく表現できていたので感動しました。

作品展示において光についてどのようにお考えですか?

自身のギャラリーである『Hiroko Nakakita』では、鑑賞者に作品と対峙してもらうため、作品を引き立たせるように、敢えてギャラリーの内装を全て黒に統一し、作品に照明を当てるように工夫しています。

光は、自己を見つめるような空間へ、茶室のような教会のような空間を作り出す要素として大切にしています。

ITLの照明を使用してみた感想。

今回の個展では、自身のギャラリーの展示室壁である”黒色”とは異なりますが、(TIERS GALLERY by arakawagripの展示壁は“白色”です。)キャンバスのサイズに光を当てることにより、作品が壁から浮き出て、鑑賞者が集中できる空間が出来ていたと思います。

一つ一つ、作品が主役になっていて、一つ一つ作品と対話ができる。

私は制作する上で大切にしていることは、鑑賞者の気持ちに寄り添い、作品が癒やしをもたらせられるような気持ちで制作しています。
自分にしか汲み取れない表情を見せてくれていると感じることは、作品への対峙や対話への第一歩へと繋がると思っています。

そんな作品の表情を際立たせるために、対象への光の当て方はもちろん、光にもさまざま色彩があること。そして、ITLの照明によって、砂、ラメ、クリスタルなどの素材の輝きが違うことにも感動しました。